ゲームの社会的受容について、欧米では暴力表現・日本では性表現に寛容な傾向が見られる。海外では人気でも、国内では未発売の「残虐ゲーム」は多い。一方でアダルトゲーム(美少女ゲーム、エロゲー)は年間で数百タイトルがリリースされるが、ともすれば表舞台から「存在しないもの」として扱われてきた。そうした中で本書『エロゲー文化研究概論』(総合科学出版、2013年)は、約30年にもおよぶ国産アダルトゲームの歴史を辿る上で、重要な資料となっている。

本書は1980年代前半の黎明期から2012年までの歴史的文脈を、主要タイトルの紹介を踏まえながら、包括的に整理しようとする野心的な試みである。地下鉄サリン事件をはじめ、その時々の社会的なトピックや、海外アダルトゲーム、全年齢ゲームとの関係などにも触れられており、アダルトゲームの総合的な立ち位置もつかめるようになっている。著者は二次元メディア全般に造詣の深いフリーライターで、一貫してファン目線で記されており、情報量の多さにも関わらず、非常に読みやすい点が特徴だ。

一読して改めて感じるのは、アダルトゲームと全年齢ゲーム、および社会全般との繋がりの深さだ。黎明期からゲームメーカーの中にアダルトゲームを手がけていた企業があったことや、アダルトゲームから性描写を削除して家庭用ゲームに移植される流れ、さらにはアダルトゲームのクリエイターが、ライトノベルやアニメ分野にも活躍の場を広げるなど、その例は様々。日本映画史を語る上で成人映画が避けて通れないように、アダルトゲームもまた国産ゲーム史において、確かな役割をはたしてきたのだ。

またジャンル的な広がりや、作品性にも注目だ。中でも近年の「男の娘(おとこのこ:容姿と心が女の子のような少年)」ムーブメントと、そうした作品群を「それはそれでいいかも」と受容する懐の深さは、日本文化の特徴だろう。一方で市場は縮小傾向にあり、インターネットの普及やアプリ市場の拡大などで、海外との文化的摩擦の増加も予想される。アダルトゲームを社会全体でどのように位置づけていくか、議論すべき時期ではないだろうか。

『エロゲー文化研究概論』

著者:宮本直穀、出版社:総合科学出版

出版社サイト

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