2019年度メディア芸術連携促進事業・連携共同事業の報告会が、2019年10月15日(火)に大日本印刷株式会社のDNP五反田ビルで開催された。メディア芸術連携促進事業は、メディア芸術分野における、各分野・領域を横断した産・学・館(官)の連携・協力により新領域の創出や調査研究等を実施する事業だ。本事業の目的は、恒常的にメディア芸術分野の文化資源の運用と展開を図ることにある。中間報告会では、本事業の一環として実施している連携共同事業7事業の取り組みの主旨や進捗状況が報告された。会場では、マンガ、アニメーション、ゲームとメディアアートと、4つの分野を3グループに分け、各グループで事業概要、進捗状況、課題、展望などが伝えられ、これらを踏まえて議論・助言が行われた。本稿では、2つの事業が進められているマンガ分野についてレポートする。
マンガ原画に関するアーカイブおよび拠点形成の推進
学校法人京都精華大学国際マンガ研究センター/京都国際マンガミュージアム他
報告会参加者:
日高利泰氏(マンガ研究者)*報告者
大石卓氏(横手市まちづくり推進部文化振興課(横手市増田まんが美術館))
小野慎之介氏(東洋美術学校 保存修復研究室)
日高氏
【事業概要】
1)マンガ原画のアーカイブ(=〈収集〉〈保存・整理〉〈活用〉)作業の実施。将来的な発展的原画アーカイブについてのマイルストーンを作成し、関係機関先との認識を共有する。
2)連携機関のネットワーク構築とハブとなる拠点形成を確立する。横手市増田まんが美術館内に設置を検討している「マンガ原画アーカイブセンター(仮称)」の活用について協議していく。
【報告】
事業内容は具体的に6つに分かれ、①連携機関が所蔵している原画の〈収集〉〈整理・保存〉作業については、順調に進展している。②全国の関連施設による「マンガ原画アーカイブネットワーク」(仮)構築に向けた会議は、10月下旬に横手で開催予定 。③過去4年度分の取り組みで蓄積された各館の原画整理・取り扱い方の事例を基に「マンガ原画アーカイブマニュアル」(仮)の作成および公開の準備を進めている。本マニュアルには後述するアンケートの内容も反映させる。④多方面からの意見集約のために、8月、全国の文化施設約1200館を対象にアンケートを実施し、9月末で約650館より返答をいただいた。予想より回収率が高く、関心の高さが明らかになった。⑤シンポジウムの開催は、12月開催が決定している。⑥マンガ原画支持体・画材研究に関しては、カラー原画の退色についての研究を主として行っている。
今後の課題としては、アンケートからもれた文化施設とどのように連携をしていくか、アーカイブにあたって場所・人材・資金不足といった問題があるなかでどのように進めていくか、原画をどのように価値づけしていくかなどが挙げられる。
国内外の機関連携によるマンガ史資料の連携型アーカイブの構築と人材育成環境の整備に向けた準備事業
特定非営利活動法人熊本マンガミュージアムプロジェクト他
報告会参加者:
鈴木寛之氏(熊本大学 文学部)*報告者
橋本博氏(特定非営利活動法人 熊本マンガミュージアムプロジェクト)
柴尾晋氏(明治大学 学術・社会連携部 図書館総務事務室)
鈴木氏
【事業概要】
産・学・官・民・自治体等の連携・協力により、メディア芸術分野の文化資源として重要な位置を占めるマンガ(大量複製された刊本)の史資料の収集・保存・活用を実践し、その成果を検証することで、作業手法の深化や開発を図る。同時に、連携型アーカイブの構築のためのアーキビスト育成と、マンガ文化の保存の意義を広く一般に啓蒙普及していくための事業を行う。
【報告】
本事業の最終目標は、「マンガ雑誌・単行本アーカイブ」に関する将来構想の検討、連携機関をつなぐネットワークの構築、持続可能な拠点の形成と専門的人材の育成の3つ。将来のビジョンとして、メディア芸術領域における「マンガ雑誌・単行本アーカイブ」の機能を担保すべく、人・物・情報を総合的に集約するための拠点を整備することを目指す。
具体的な事業内容として、まず①共同保管に関する実践・全国調査では、公共図書館でマンガの収蔵現状を把握し、複本プール・共同保管倉庫に収集・保管されたマンガを移送する需要があるのかを調べるためのアンケートを作成・発送準備中。②刊本の国内外連携機関への資料輸送も、各連携施設に向けて、単行本もしくは雑誌主体のパッケージを送付準備中。③複本プールマニュアル作成と人材育成では、熊本の複本プール・共同保管庫の状況を基に複本プール設置に関するマニュアルを作成し、国内の他の地域での活用を目的とする。④パッケージマニュアル作成と人材育成においては、複本のパッケージ化に当たってどのような分類整理が可能か、また各収蔵施設の特色に合わせたパッケージづくりの方法などを、マニュアルとしてまとめている。⑤シンポジウム開催の内容は、刊本事業の意義と可能性について総合的に論じる。以上の5つの事業を進めている。
主な課題としては、共同保管倉庫のスペースの確保、施設維持・人材確保の方法の確立、複本データの取得書誌項目の検討、マンガ単行本・雑誌以外の資料の活用方法、刊本のデジタル資料化などがある。
2つの事業に対する議論・助言
赤松健委員(公益社団法人日本漫画家協会)は「ビジネス化していくのなら、作家によって優劣をつけることを検討する必要があるのではないか。国立国会図書館の『亞書』騒動によって、納本を拒めない場合の問題も浮き彫りになった」と収蔵物の内容について問題提起。続けてデジタル化について、「インターネットにおいて無料でプールされている雑誌に対しては、YouTubeが行っているコンテンツID(著作権を保護するためのシステム)のようなシステムをプラスして、権利者に収入が入る形式にするのが現実解だろう。雑誌や新聞のデジタル化に当たり、権利がとれなかった部分は黒塗り、かといって文通コーナーで個人情報が記載されているといった問題があるため、そういった課題を解決し、先のシステムも導入される形がよいのでは」と意見。
森川嘉一郎委員(明治大学 国際日本学部)は、「原画の散逸防止が急務。記念館が立つクラスのごくわずかなマンガ家以外は、死後に原画が散逸の危機に瀕する。受け入れ窓口としてハブとなるセンターが設けられ、その後の保管・管理は複数施設のネットワークによって維持される仕組みが想定される。そのたたき台を本事業で形成し、国の機関であれば比較的クリアしやすくなる電子化費用や権利問題を、制度設計に組み込むことが望ましい」と述べた。
また、清水保雅委員(株式会社講談社)からは「マンガ原画アーカイブセンターができるに越したことはないが、国が先導するにあたっては、民間との差別化を提示すると国民も理解しやすいのでは。デジタル化は、以前出版社は難色を示していたが、デジタル刊行物の発行が増えたことで、態度も軟化している」と出版側の立場から意見。また、連携型アーカイブについて「学校や児童施設にはどれくらい送られているのか」と問うと、橋本氏は、「1館当たり7,000から1万5,000冊で、小学校は3万冊ぐらいの予定になる。インプットがたまる一方で、出先が決まらず限界が近い」と現状を伝えた。
森川委員は原画の保存に関して、「百貨店などさまざまな施設で原画の展示が盛んに行われるようになっていることを踏まえ、損傷や劣化防止のマニュアル整備が望まれる。これについては、同様にさまざまな原画展が行われるようになっているアニメ分野と連携してはどうか」と提案。小野氏は「今年はアルコールマーカーの退色実験を行った。カラー原画は劣化スピードが速く、実物展示は勧められないほどもろい。この先、原画’(京都精華大学国際マンガ研究センターが行う複製原画プロジェクト)との提携も重要になってくるだろう」とマンガ原画支持体・画材研究の結果と今後の展望を提示した。
このほか、5月にリニューアルオープンした横手市増田まんが美術館における原画の保存・アーカイブの取り組み、横手市のまちづくりでの収蔵物の活用事例、アーカイブ施設が被災した場合の原画の修復、原画と比べて保存意義がわかりづらく量が膨大な刊本アーカイブの問題点、作業者の入れ替わりによる知見の喪失などについて論じられた。
マンガ分野の議論の様子
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