平成30年度メディア芸術連携促進事業の報告会が、2018年11月13日(火)に国立新美術館で開催された。メディア芸術連携促進事業は、メディア芸術分野における、各分野・領域を横断した産・学・館(官)の連携・協力により新領域の創出や調査研究等を実施する事業だ。本事業の目的は、恒常的にメディア芸術分野の文化資源の運用と展開を図ることにある。中間報告会では、本事業の一環として実施した「連携共同事業」に採択された8事業の取り組みの主旨や進捗状況が報告された。

【マンガ】

【アニメ】

【ゲーム】

【メディアアート】

マンガ原画に関するアーカイブ(収集、整理・保存・利活用)および拠点形成の推進

学校法人 京都精華大学
報告者:京都精華大学 国際マンガ研究センター 研究員 伊藤遊

伊藤遊

【概要】
本事業は、マンガ原画の〈収集〉〈保存・整理〉〈活用〉を実践し、施設や個人等の属性や目的に応じたアーカイブモデルの開発、提案が主な目的である。過去3年間の事業で積み上げてきた、原画アーカイブの手法、人材育成プログラム、受入モデル等をふまえ、連携機関のネットワーク構築とそのためのハブとなる拠点形成を目指す。さらに、ますますマンガ原画の収蔵や活用の必要性が高まるなか、マンガ家自身から公共施設まで、さまざまな条件におけるアーカイブに関する相談などに対応するインターフェースとして、「マンガ原画アーカイブセンター(仮称)」を、平成31年度にリニューアルオープンする横手市増田まんが美術館内に設置することを目指している。
機関連携先は以下の通りである。
1)京都国際マンガミュージアム
2)明治大学 米沢嘉博記念図書館
3)北九州市漫画ミュージアム
4)一般財団法人パピエ(谷口ジロー版権管理団体)
5)横手市増田まんが美術館
6)東洋美術学校

【中間報告】
原画の〈収集〉〈整理・保存〉作業を、各連携先にて進めている。一般財団法人パピエは今年度から加わった連携先となる。今後の展開として原画展の海外開催を企画しており、海外でも人気の高い谷口ジローの原画展開催を想定しつつ議論している。また前年度から引き続き、東洋美術学校にてマンガ原画の支持体・画材研究を化学的な観点から取り組んでいる。2月には、横手市増田まんが美術館にてシンポジウムを開催し、そこで「マンガ原画アーカイブセンター(仮称)」開設に向けての協議を行う予定だ。

※敬称略

第7回マンガ翻訳コンテスト

デジタルコミック協議会
報告者:株式会社集英社 ライツ事業部海外事業課 関谷博

関谷博

【概要】
優れたマンガ翻訳家を発掘・育成すると同時に、海外で受け入れられる可能性を持つ未翻訳作品を海外の出版社やプラットフォーム等を通じて出版することを目指す。授賞式の際には国内外の翻訳者や編集者、出版・配信関係者をパネラーに招いてのシンポジウムを行い、将来的な人材の育成・市場の開拓に寄与し、多くのユーザにマンガの海外展開に対して興味を持ってもらうことを目指す。
今回は、マンガ作品『egg star』『みやこ美人夜話』に加え、新たな試みとしてライトノベルから『京都寺町三条のホームズ』を対象作品とした。その中から9名の最終候補者を選出、3名の大賞・作品賞受賞者は対象作品の正規翻訳者としてデビューする。
また、昨年度の反省を踏まえ、一般読者も参加できるイベントとして、今までの受賞者やプロの翻訳家が課題作を翻訳してトーナメント形式で腕を競い合う新企画「Manga Translation Battle of Professionals」を開催する。

【中間報告】
今年はSNSでの告知はもちろん、New York Comic-Conでインタビューを受けるなど、例年以上にプロモーションに力を入れた。その結果、応募総数は194件、マンガ作品より文字数の多いライトノベル作品にも50件と予想以上の応募があった。新企画「Manga Translation Battle of Professionals」は、現在1st Round『中間管理録 トネガワ』が終了し、1000件近い投票を得られた。2nd round『パタリロ!』3rd round『キングダム』も引き続き行う予定だ。
本事業は第7回を迎えるが、今まで裏方として活躍していた翻訳家が自分からSNSで発信するようになるなど、マンガ翻訳に対する当事者の意識変化も見られるようになった。以前から課題とされている多言語展開についても、特にニーズのある中国・フランスを視野に審査体制を整えて行きたい。

※敬称略

国内外の機関連携によるマンガの史資料の連携型アーカイブの構築と人材育成環境の整備に向けた準備事業

学校法人 明治大学
報告者:明治大学 図書館総務事務室 柴尾晋

柴尾晋

【概要】
本事業は、平成27年度・28年度に京都精華大学、平成29年度に明治大学で実施した準備事業を継続し、(1)未整理蔵書整理及び目録整備(2)複本の国内外連携機関への移送(3)マンガの史資料のアーキビストの育成、の3つを軸に、国内外の連携機関による、マンガ単行本等資料の連携型アーカイブの構築・人材育成環境の整備に向けた準備事業を行う。
(1)は明治大学各施設に保管されている未整理蔵書15,000冊を整理し、移送数は10,000冊を目標とする。(2)は熊本県内の自治体(マンガ関連施設)、熊本市、八代市などの国内連携機関、中国、ブラジル、コロンビア、アルゼンチンの海外連携機関へパッケージした複本を移送する。(3)は明治大学未整理蔵書の複本を熊本・森野共同倉庫へ移送し、分野別、年代別などのパッケージ編成できるスキルを有する人材育成を、昨年度事業の経験者及び特定非営利活動法人熊本マンガミュージアムプロジェクト(クママン)の知見・経験を最大限、活用して行う。

【中間報告】
正本登録作業は順調に進んでいるが、複本の移送については自然災害等の影響から各種公共交通機関の混乱があり、予算内での代替移送手段を探しつつ作業を行った。海外に関しては、今回初めてアルゼンチンが連携先に加わり、北京大学漫画図書館閲覧室では移送した複本を現地の日本文化に強く興味を持つ学生たちに読んでもらうなど、連携がより深まった。アーキビストの育成では、中国からの留学生を含む熊本大学大学院生3人を人材育成対象とした。学生からの意見や提案をマニュアルに盛り込み、海外の連携先ではそれをベースに現地語版などを別に作成して対応していく方針である。

※敬称略

アニメーションブートキャンプ2018

森ビル株式会社
報告者:東京藝術大学大学院 映像研究科 アニメーション専攻 教授 布山タルト

布山タルト

【概要】
「アニメーションブートキャンプ」は、アニメーション産業界と教育界とが連携して、これからの時代に即した人材の育成についての課題を明らかにし、実践を通じてそれらを解決するという、人材育成プログラムの開発を目的とした事業である。本事業では、産学共同ディレクター体制のもと、産学の垣根を越えたさまざまな立場の人たちが、知恵を出しあい、その知恵を共有する、という人材育成におけるプラットフォームとなることを目指している。
本年度は短期型と合宿型、合わせて約60名の参加者を迎えてワークショップを開催し、昨年度の3DCGプログラムの実施で得られた課題を解決してプログラムの確立を進める。また、新しい取り組みとして過去6年にわたり実施したワークショップ参加者に対し、ヒアリングおよびアニメーション業界への就職状況のWEB調査を実施する。

【中間報告】
8月実施の短期型ワークショップには、17〜47歳までの参加者40名が集まった。動きの要となる「キーポーズ」を見つけ出すことをテーマに、初心者でも扱える簡易な機材のみで実施できるよう改善し、地方開催など今後の展開も期待できる成果を得られた。11月中旬に開催予定の合宿型ワークショップでは昨年度の反省を生かし、3DCGのチームを3チーム、講師を3名に増やし、2Dと3DCGそれぞれの講師が行き来する指導が行えるよう、機材やカリキュラムなどの準備を進めている。
先日実施したWEB調査では、調査対象者228名のうち約130名が現在アニメーターとして活躍していることが分かった。
※過去6年間のワークショップ参加者総数は285名。現在学生の35名と、合宿・短期の両方に参加した人22名を除いた就職状況の調査対象者は228名。

※敬称略

JAPAN STORY BANK実証実験

特定非営利活動法人 映像産業振興機構
報告者:特定非営利活動法人 映像産業振興機構 第1事業部 水越浩司

水越浩司

【概要】
大学・専門学校等協力団体に所属する、ゲームクリエイター等が考案した優れたオリジナル企画・ストーリーを登録するためのシステム「JAPAN STORY BANK」を開発し、オンライン上で海外のゲーム会社等とマッチングできる仕組みの構築を目的とする。本年度は登録件数20件を目標に試験運用を開始し、2年後には登録件数200件を目指し、事業化に向けての検証を行う。アドバイザーに一般社団法人日本ゲームシナリオライター協会を迎え、企画の収集・推薦をOCA大阪デザイン&IT専門学校、東京工芸大学、一般社団法人日本放送作家協会等が、システム開発を株式会社ステキが担当する。

【中間報告】
現在は協力団体への説明を済ませ、今後は要件定義前の事前ヒアリング、システムの要件定義と開発、企画・ストーリー募集と翻訳、買い手側へのアプローチ、プロモーションを順次実施していく。
企画・ストーリーを登録してもらうゲームクリエイターはプロ・アマ問わずだが、基本的には個人ベースで活動しているクリエイターが中心で、作品の選別については今後協議しながら決めていく方針である。物語を進めるシナリオを盛り込んだRPG(ロールプレイングゲーム)などは日本以外では活発でないが、ゲームに限らずマンガやアニメ、実写映画など他のコンテンツへの活用も視野に入れている。ストーリーの表記は日英表記のみだが、「日本の優れたストーリーやキャラクターを紹介してほしい」という要望の多い中韓への翻訳も考えており、知的財産の保護についても中国の代理店に著作権登録の協力を要請する予定である。

※敬称略

平成30年度 ゲームアーカイブ所蔵館連携に関わる調査事業

学校法人 立命館 立命館大学ゲーム研究センター
報告者:井上明人事務所 代表 井上明人

井上明人

【概要】
本事業はゲーム所蔵館の多面的連携を通じて持続可能な保存環境の構築を目指すもので、平成27年度から継続して実施している事業である。これまで立命館大学ゲーム研究センターを主体として、継続的な連携組織の国内外所蔵館42カ所の内、特にアーカイブ機能を重要な目的とする施設(現時点では13施設)との間で国内外での会議を開催してきた。海外での国際会議の開催、ヒアリング調査、合計約40,000件のゲーム資料及び関連資料の目録の相互紐付けなどを行い、ゲームを保存する為の基礎的なデータ整備を行ってきた。併せて、ゲームに関わる著作権、展示手法、産学連携枠組の方法論の調査を行い、それらの成果を連携枠組の中で共有してきた。
今年度は、著作権や展示手法についてのヒアリングなど各種調査を行い、ゲーム資料の目録の紐付け作業を進めることを目的とする。また、海外の関係者を招いた国際会議を1月に京都で開催し、連携のより持続可能なかたちを作り上げていく。

【中間報告】
現在、展示手法について国内5カ所(バンダイナムコスタジオ、京都府城陽市、SKIPシティ 彩の国ビジュアルプラザ、明治大学、東京芸術大学)についてヒアリング調査を行った。目録の紐付け作業は、2016年以降の国会図書館更新データ約500件、立命館大学のデータ1,000件について完了している。また、バンダイナムコゲームスの兵藤氏らとともに産学連携でアーカイブの活用について議論を進めている。著作権調査、アーカイブの利活用については、調査を進めている段階である。
今後は1月の国際会議開催に向けて準備を進めるとともに、展示手法についての調査を4カ所で行い、紐付け作業の精査と統合目録の作成、重点マップの作成を行う予定である。

※敬称略

1985~2005年間の企業メセナによるメディアアート展示資料の調査研究事業

愛知県公立大学法人 愛知県立芸術大学
報告者:愛知県立芸術大学 美術学部 非常勤研究員 明貫紘子

明貫紘子

【概要】
国際的にも注目されてきた日本のメディアアートを、その黎明期からの興盛を支えたのが民間企業のメセナ(文化貢献)活動だ。企業による文化プログラムは1985〜2005年の間に多く生まれたが、現在も継続しているものはわずかしかなく、作品や資料については企業の方針次第で廃棄・放置されているものもある。本事業は、作品の行方や存在の有無を調査するとともに、残された作品記録、関連資料をプロジェクト単位で収集し、デジタル化し保存することを目的とする。
実施体制は、愛知県立芸術大学の関口敦仁(総合ディレクション)、阿部一直(ディレクション、企業交渉調査)、明貫紘子(歴史的考察、資料整理)、水野響(事象整理、資料整理)四方幸子(ディレクション、原稿執筆作業)というメンバーである。一次・二次資料の収集と目録作成、年表作成、インタビューを行う予定だ。

【中間報告】
調査の主な対象は、特定の場を持たずに年1~2回アーティストと共同でコミッションワークを実施した「キヤノンアートラボ」(1991-2001、キヤノン株式会社)、「生活とアートの融合」をコンセプトに活動する複合文化施設「スパイラル」(1985-、株式会社ワコールアートセンター)、ネットアートのプラットホームとして機能したインターネット上のアートスペース「CyGnet」(1998-2003、株式会社資生堂)である。
資料が残っていない、または社内でも活動が周知されていないケースも多く、想定よりも調査対象も広いため、調査が難航している。会場からは、調査対象となるプロジェクトや時代の絞り込み、メディアアートに詳しい個人への取材、メディアアートの問題点を明らかにすることなどの提案がなされた。

※敬称略

メディア芸術データベースのためのメディアアート分野作品調査と関連組織の連携構築へ向けた準備作業

特定非営利活動法人 Community Design Council
報告者:特定非営利活動法人 Community Design Council 代表理事 野間穰

野間穰

【概要】
本事業はメディアアート分野に関連する資料の調査や関係者のヒアリングを行うことで、作品や催事などに関するデータや資料などの状況について把握することを目的とする。同時にメディアアート分野に関する関係者自身の考え、データの採録範囲やデータベースの活用、分野内・分野間の連携などについて調査し、連携を促進するような関係構築へ向けた準備を行う。実施体制はCommunity DesignCouncilを中心に、株式会社とお浅、有限会社フルティガで調査・データ作成を行い、関口敦仁(愛知県立芸術大学)、畠中実(NTT インターコミュニケーションセンター[ICC])両氏に事業助言の協力を仰いだ。8〜9月にかけてヒアリング対象者、調査対象催事などの事前調査を行い、以降調査を進め、12月頃から資料目録リストの作成を進める。

【中間報告】
現在、名古屋国際ビエンナーレなどに関する資料5点を調査中で、ICC初期の展示資料のデータ化を検討している。ヒアリング対象者に関しては、メディアアート制作者に限らずエンターテインメント関係者や周辺の有識者、技術者なども対象とし、当初計画の13名以上20名程度を目標に実施を予定している。中間報告会の時点では、畠中実(ICCキュレーター)、八谷和彦(作家、PetWORKs代表)、中ザワヒデキ(作家)、谷口暁彦(作家)の計4名のヒアリングを終えた。作家本人へのヒアリングでは、自作のデータや資料を公開する可能性については、各氏で意見が分かれた。
メディアアートはチームプロジェクトでの制作や、作家の手を離れインストーラーなどの技術者が制作するケースも多く、作品そのものが時代や展示場所に合わせて変わっていく性質もあることから、現在公開されているメディア芸術データベース(開発版)では作家と作品によらない催事をベースとしたデータベースとなっている。作家や作品にフォーカスした調査をどのようにデータベースに落とし込んでいくか、検討している。

※敬称略